世界と日本のプリントオンデマンド事情 – 市場規模や考え方の違い、共通点とは
組み込み型のものづくりサービス〈Printio〉は、ただいま北欧出張中。世界のプリントオンデマンド事情を目の当たりにしてきたので、本ブログでは、改めて「世界のプリントオンデマンド」と「日本のプリントオンデマンド」の考え方や市場規模、状況の違いや共通点をご紹介します。
出張記録や工場見学の様子は、note『北欧PrintOnDemand工場見学ツアー/ノルウェーのデジタル専門工場をみてきた』や『北欧PrintOnDemand工場見学ツアー/アパレルを始めたばかりのスウェーデンの大手工場』に載っていますので、そちらをご覧ください。
〈Printio〉を運営する、株式会社OpenFactoryの代表・堀江のnoteより
目次
世界のプリントオンデマンドプレイヤー
そもそも、世界にはどんなプリントオンデマンド(POD)プレイヤーがいるのでしょうか。日本国内にはまだほとんどいませんが、世界には多くのPODプレイヤーが存在しています。今回は、その中から代表的な企業を5社ほどご紹介いたします。
※プリントオンデマンドとは、英語でPrint-On-Demandと書くため、PODと略されることが多い「要求に応じて(オンデマンドで)行う印刷(プリント)」のこと。詳しくはこちらの記事よりご確認いただけますPRINTFUL(プリントフル)
2013年アメリカ創業の世界最大手PODプレイヤーのひとつ、PRINTFUL(プリントフル)。世界中にフルフィルメントセンターと呼ばれる、出荷倉庫を持ち、2021年には評価額が10億ドルを超え、ユニコーンスタートアップの仲間入り。2021年には約172億円の資金調達も達成しています。ラトビアに自社工場を持ち、自社製造を中心にアパレルのプリントオンデマンドなどをEC販売用商品として展開しています。豊富なカート連携が魅力です。日本からの注文も可能ですが、注文後、多くの場合はラトビアから商品が届きます。
Printify(プリンティファイ)
2015年アメリカ創業のPrintify(プリンティファイ)はサンフランシスコに拠点を持つPODプレイヤーです。2021年に約60億円の資金調達も達成しています。世界中(アメリカ、ヨーロッパ、カナダ、中国、オーストラリア)の工場が製造可能なアイテムを掲載。対応可能なアイテムの幅が広いことや工場同士での製造条件を比較することができるという特徴を持ちます。日本からの注文も可能ですが、アイテムごとに製造国や製造工場は大きく異なります。また、日本国内の工場での製造には対応していません。
gooten(グーテン)
アパレルのプリントオンデマンドでのEC販売時のオペレーションコスト削減をうたいながら、運営しているgooten(グーテン)。本社はアメリカ・ニューヨークにあり、2021年には約20億円の資金調達を達成したスタートアップ企業です。印刷可能範囲へのレイアウト、資材の色選択など、プロのデザイナーでなくても入稿しやすいUI/UXを意識しています。アメリカ、ヨーロッパ、南米、中東、インドなど複数の国に提携工場を持っていますが、日本には提携工場を持っていません。日本からの注文も可能ですが、アイテムごとに製造国や製造工場は大きく異なります。
Teespring(ティースプリング)
2011年にアメリカで始まったTeespring(ティースプリング)。当時学生だった創業者が友人と「クラウドファンディングサービス」として始めたサービスです。Tシャツのデザインを作成し、販売価格を入れて、世界中に向けて販売することが出来ます。販売機能に特化しているため、サービス内で販売先のアナリティクスなどを詳しく見ることも可能で、クリエイターの制作したデザインを一覧(デザインマーケット)から探すことも出来ます。2020年には約64億円の調達も達成しています。日本での製造はしていませんが、注文は可能です。
Gelato(ジェラート)
2007年にノルウェーで始まったGelato(ジェラート)は、ヨーロッパ全土にパーソナライズされたグリーティングカードを販売するサービスからスタートしています。企業印刷物(カタログなど)を国単位で現地生産するサービスとして広がり、コロナ禍以降に、APIを開放し、本格的にPODによるEC販売業界に参入。工場向けの製造管理システムや、ブランド向けの販売状況やアナリティクスを確認できるアプリなども開発しています。日本を含め、世界中32か国に生産パートナーを持ち、2021年に約320億円の大規模資金調達も達成しています。日本法人の開設は2022年に始まり、現在拡大途中です。
【まとめ】世界のオンデマンドプレイヤー
世界のPODプレイヤーは、アメリカ発の企業が非常に多いです。これは、スタートアップ企業の数がアメリカにとても多いこと、PODプレイヤーはまだどこもスタートアップ企業であることも所以しています。
その他の要因としては、プリントオンデマンドというビジネスモデル自体の発祥がアメリカであることや、プリントTシャツ文化がアメリカで非常に根付いていることが挙げられるでしょう。
また、各家やオフィスもゆったりとした作りになっていて、大きなファブリック(壁掛けのキャンバスペイント作品やプリント柄のクッションやカーテンなど)を飾る習慣があり、DIYや手縫い・手編みのものづくりの定着度合いが非常に高いことも要因の一つかもしれません。
プリントオンデマンドの考え方と市場規模【世界編】
続いて、そんなプリントオンデマンド市場の規模や重要視している視点について考えてみたいと思います。
世界での市場規模はアパレルだけで約10兆円
421兆円にのぼると言われているグローバルEコマース(EC市場)の市場規模。そのうちプリントオンデマンドを用いたアパレル品の市場規模は2.13~2.3%相当で9~10兆円程度と見込まれています。
国ごとに生産する新しい越境ECの在り方
世界(グローバル)規模で考えたときのプリントオンデマンドが持つ大きな魅力の一つに「新しい越境EC(=ローカル生産でのEC)」という部分があります。
生産後に越境して届ける、旧来の越境ECではなく、デザイン・企画は自国で行い生産のみローカルで実施することで新しい越境ECの形を生み出しています。
ローカル生産を行うことで、国単位での現地生産や近接国生産といった国を跨いだ生産が実現し、配送コストはもちろん税金の発生の仕方などもクリアになります。さらに、ローカル生産を推奨することで、グローバル展開している多くの企業の課題となっている「サステナブルな社会の実現」に向けた、輸送や調達に関連する二酸化炭素の排出量の低減、現地の雇用実現などもストロングポイントとして提供可能です。
生活の中でも感じられる「サステナブルな社会の実現」への興味関心の高まり
グローバルでは、この「サステナブルな社会の実現」への興味関心の高まりがあらゆる面で、如実に表れています。
カーボンニュートラルの実現への意識、アップサイクルの浸透、ヴィーガンフードや電気自動車の普及、労働者の権利・こどもの権利などを考える法律の整備、レインボーフラッグなどを含む個人単位でのアクション、ユニバーサルデザインで作られた都市……このあたりの具体例は挙げてみると限りがありません。さらに、投資の領域でも、現在約50兆ドル(=約6,607兆円)がESG投資にかけられ、今後も年間15%ずつ増大していくと予想されています(マッキンゼー調べ)。
このあたりの感覚は、日本では日常的には、まだ感じにくい部分があるかもしれませんが、「欧州グリーンディール」と呼ばれる政策パッケージが発表されたり、国家規模でのサステナブルへの取り組みや法整備の進行が日本とグローバルとのサステナブルへの関心の差を生んでいるからかもしれません。
世界と日本のサステナブルへの関心の違いや、工場や暮らしの中でのサステナブルにまつわることは、こちらの記事『世界と日本のサステナブル事情 – ものづくりの現場・工場内での違いや暮らしの中での違い』にて詳しくまとめてあります。
『世界と日本のサステナブル事情 – ものづくりの現場・工場内での違いや暮らしの中での違い』
プリントオンデマンドの考え方と市場規模【日本編】
日本のプリントオンデマンドの話に移ります。日本のプリントオンデマンドの提供サービスにはユニクロの実施している〈UTme!(ユーティーミー)〉やGMOペパボの実施している〈SUZURI(スズリ)〉、ピクシブ株式会社による〈pixivFACTORY(ピクシブファクトリー)〉などが挙げられます。いずれも、自らのサービスやショップへ接続するという側面よりかは、それぞれのサービス内のプラットフォームでの販売を想定されたサービスではありますが、それぞれさまざまなアイテムをオンデマンドで製造・販売が可能です。
日本のプリントオンデマンド市場にはポテンシャルが詰まっている
日本のプリントオンデマンド領域の市場規模は約100億円。EC市場に対して占める割合は約0.1%に留まってしまうのが現実です。
ですが、このことは、日本のプリントオンデマンド市場へのポテンシャルとして捉えることも出来ます。現在約100億円の本市場が海外の現在の平均である、約2.3%までひろがると考えると、それだけで約443億円の市場になると言えるわけです。
身に着けることが表現になる。プリントTシャツ文化の広がり
また、日本では定着しづらかった「プリントTシャツ文化」もユニクロによる「UT(ユーティー)」の広がり、そして、推し文化の台頭により少しずつ耕されてきています。
「好きなものを身に着けること」や「身に着けることで個性を表現すること」、「誰かを応援したり、エンパワーメントするために身に着けること」が身近になってきています。これは、プリントオンデマンド市場を確実に後押しする流れとなるでしょう。
※UTとは、「Tシャツを、もっと自由に、面白く。」 をテーマに、2003年に「ユニクロTシャツプロジェクト」としてスタートした着る人の個性を手軽に表現できるプリントTシャツ。浮世絵からジャンプ漫画、現代アート作品など様々なカルチャーを身に着けることが出来る。 ※SUZURIとは、クリエイターが自分のイラストやデザインの写真をアップロードすることで、簡単にオリジナルデザインのアイテムを販売することが出来るクリエイターに特化したサービスです越境はしなくても、自律分散したものづくりは目指したい
一方、日本では、ECの越境はまだまだ需要が限られています。日本も人口減少社会でもあり、本来は国外に積極的に販売するビジネスは必要に迫られていると言えるのかもしれませんが、日本国内の市場自体の持つ大きさや言語の壁、文化の壁などもあり需要の広がりは抑えられたままです。
ですが、国内生産でのローカル性、ひいては「自律分散型のものづくり」に関しては日本国内でも関心が高まっています。プリントオンデマンド以外のものづくり領域でいえば、木材加工を行う「Shopbot(ショップボット)」という機械を活用する〈VUILD(ビルド)〉によるサービス〈EMARF(エマーフ)〉や、板金加工を行う工場をむすぶ〈CADDi(キャディー)〉のようなサービスもあります。
自律分散というのは、それぞれの工場やアトリエが独立し、それぞれの仕事を「自律」して行いながらも、ゆるやかに繋がりあい「分散」しながら共に仕事を行うことです。自律分散による弱いつながりは、全国に多くの中小規模のものづくりの現場が存在する日本にとって、これからの未来を描いていく大切なキーポイントになってくるのではないかと〈Printio〉では思っています。
まとめ
世界と日本のプリントオンデマンド市場には、まだまだ乖離があります。それは、つくり手にとっても、つかい手にとっても同じです。
しかし、世界であっても日本であっても、サステナブルな社会、一人ひとりが自分らしくいられて、社会みんなで暮らしていける状況を模索することは変わりません。
〈Printio〉のビジョンは「Goodであること」。100億円で0.1%にしか満たない日本のオンデマンド製造をこれからどんどん広げることで、在庫はなく、必要な時に必要な数だけものづくりを行うGoodな社会を目指して〈Printio〉も運営していきたいと思います。
共にGoodであることを一緒に考え、新しいビジネスを一緒に始めたい仲間はいつでも探しています。是非、こちらのお問い合わせ欄もしくはこちらのウエイティングリストよりご連絡ください。